★24個シリンダー★
著者:青兎歩 様
蒼月夜  
月が12度満ちる。其れが2回繰り返らされても、何も変わら無い・・・そんな状況が続いて居た有る日の事だった。
季節は春で、桜が咲いて居た。満開の桜は惜しげも無く散る。雨に撃たれ、風に吹かれて雪の様に。族を引退し無い高村の為に、帰って来無い遊佐の部屋共々、電気もろくに通って居無い部屋をまめに掃除するアキラへと、欲しがって居たコードレス掃除機を届けた序に、和泉を天野の墓へ送る事に成った。
和泉は手に折れた桜の枝を握って居た。天野に花見でもさせる気なのだろうか。
和泉が車から降りた後に、ひとりの男が通って行った。見覚えの有る気がする・・・。気の所為だろうか・・・。知って居る様な・・・。
あいつに似て居る気がした。6年前、和泉と犬を助けた男。もうひとりの100万人にひとり。・・・そんな偶然が有るハズは無いのだが、厭な胸騒ぎがする。
掃除機を届けた時、アキラは和泉と話して居た。
以前、遊佐に言われた事が有る。自分ならアキラを女に戻せると。
・・・そう、あいつが言った通りに成った様だ。
なのに何故あいつは居無い?
天野を追って行ってしまったまま、帰って来無い。
アキラを待たせたまま。死んだ他の女を追って行ったまま。
それっきり。
アキラが俺に見せるのは、友人としての顔。
絶対的な信頼関係は、異性間じゃ無い。
飽く迄も、“お友達”的なものだ。
俺に出来るのは、黙って居る事だけだ。
全部ぶちまける事は簡単だが、其れをすれば、アキラは今より遠く成る。
会って話す、ただ其れだけの事が、きっと二度と出来無く成る。
二度と、俺に笑顔は向けられ無い。
 
届かない。届かない?
君の愛情。僕の愛情。
届かない。届かない。
君の声は。僕の声も。
・・・けれど・・・。
 
失う位なら、いっそ、殺してしまおうか?
(今以上は望ま無い代わりに、今を失う事が出来無い。)
時は変わる時は過ぎる時は流れて居るのに、何も、変わら無い。
(不変はこんな処に在ったのだ。)

「っ・・・」
溜め息が漏れた。
春はいけ無い。桜には狂気が、鬼が住む。
鬼は・・・俺だ。
そもそも、俺が女人禁制の掟を造らなければ、今アキラがこんな目に会う事は無かったのだ。
俺の、所為だ。
「ねぇ処々には桜の木、無いの?だったら花を買って来れば良かったね」
歩道を歩く女の声で、はっと我に返った。和泉を送ったまま、考え込んでしまって居た。今から墓参りに行くのだろう、手に線香やらバケツ、柄杓等を持ち、進む家族の姿。
車のエンジンを掛け、家に帰る。
・・・厭な胸騒ぎが消え無い。
明日、もう一度高村のアパートへ行ってみよう。
妙な予感が付き纏う。
永遠に続く回転木馬。不変を嘆くふりして、変化の無い今に留まり続けたかったのだと、気付かされるのは明日。

END.


作者コメント

想いを耐え忍ぶ伊沢への愛が高じてた時に、偶然にも同タイトルの歌が発売され、余りの感情の一致さに、ぞくぞくしながら造りました。自分で気に入ってる作品のひとつです。